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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)1463号 判決

上告人

大崎喜久男

被上告人

有限会社奥貞樹脂工業

右代表者

奥貞順治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一及び二について

判旨譲渡担保権者は、特段の事情がないかぎり、譲渡担保権者たる地位に基づいて目的物件に対し譲渡担保権設定者の一般債権者がした強制執行の排除を求めることができるものと解すべきところ、譲渡担保権者がその目的物件につき自己の債権者のために更に譲渡担保権を設定した後においても、右譲渡担保権者は、自己の有する担保権自体を失うものではなく、自己の債務を弁済してこれを取り戻し、これから自己の債権の満足を得る等担保権の実行について固有の利益を有しているから、前記の強制執行に対し譲渡担保権者たる地位に基づいてその排除を求める権利も依然としてこれを保有しているものと解すのが相当である。

これを本件についてみるのに、原審が適法に確定した事実関係は、(1) 上告人は、昭和五二年八月二〇日、峰本克則(以下「峰本」という。)に対する広島法務局所属公証人佐伯欽治作成昭和四九年第三二八六号公正証書の執行力ある正本に基づき、中空成型機VTP―五五(鳥羽製作所製造)二基(以下「本件物件」という。)につき照査手続をした、(2) 峰本は、被上告人に対し、昭和四九年一〇月上旬から昭和五〇年四月九日までの間のプラスチック製品の加工賃及び原料代として九八〇万五〇八四円の債務を負担していたが、右同日、被上告人との間で、右金額を同年五月一〇日から同年八月三一日までの間に六回に分割して支払い、右支払を担保するため本件物件の所有権を被上告人に譲渡し、峰本が債務を完済したときは、本件物件の所有権は当然同人に復帰する旨の譲渡担保契約を締結し、占有改定の方法によりその引渡を了したところ、はじめの三回分の分割金を支払つたのみで、その後遅滞に陥り、残り三回分の分割金合計五九一万九七二五円を支払わない、(3) 被上告人は、本件物件を峰本方から搬出したうえ、昭和五二年二月二八日、山尾産業株式会社との間で、本件物件につき譲渡担保契約(以下「再譲渡担保契約」という。)を締結した、というのであり、本件記録によれば、前記特段の事情についてなんらの主張立証がないことが明らかである。

右事実関係のもとにおいては、被上告人は、譲渡担保権者として、再譲渡担保契約締結後においても、本件物件につき峰本の債権者である上告人がした本件強制執行の排除を求めることができるものというべきである。これと結局同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

同三について

原判決に所論の違法はない。所論は、原審で主張しない事項について原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告人の上告理由

一、原判決は譲渡担保設定者に留保された固有の権利があると判示する。

その留保された権利の内容については原判決では、明らかではないが異議権を認めた判旨から所有権のうち担保権能を除いた部分と想定される、このように構成するとき譲渡担保権者は実質的に動産抵当権者である。

抵当権は目的物を換価して優先弁済を受ける権利であるから第三者異議訴権は有しない。

担保権者に第三者異議権を認め他方設定者にも設定者留保権があるとする原判決の判旨には矛盾がある。

二、上告人は譲渡担保は信託的譲渡であり設定者には、なんらの物権的権利も属さないと思考する。

原判決は法令の解釈を誤つている。

三、仮りに原判決の法的構成が正当であるとしても本件譲渡担保契約は昭和五三年三月三一日担保実行要件の具備(手形の不渡)によつて目的物の所有権は担保権者に帰属し契約は終結している。

したがつて、所有権者ではない上告人に異議権を認めた原判決は民訴第五四九条に違反する。

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